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大友氏第20代当主大友義鑑(大友宗隣の父)は、正室の子、大友義鎮(宗隣)を嫡子と決めていたが、側室の子、塩
市丸を寵愛するようになったため、重臣入田親誠と側室の塩市丸の母親とが企み、義鎮を廃嫡するために義鎮派の 重臣等の誅殺を謀った。
1550年2月10日、義鎮派の重臣、小佐井大和、斎藤播磨、津久見美作、田口蔵人が大友館(やかた)からの帰り、塩
市丸派の家臣等に襲われた。
小佐井、斎藤が討たれたため、津久見、田口は家来を集め取って返し、大友館を襲った。
早馬で大友舘に呼び出された大友義鎮(21歳)は、詳細を津久見美作から聞く。
「我らが帰路の途上にて、入田親誠等に襲われ、小佐井、斎藤が討ち死にいたしました。私と田口は手下を伴い、大
友舘に逃げ込んだ入田等を追い詰めましたところ、何を血迷ったか、大殿に刃を向け、この様な惨事になった次第で ござる」
大友舘の中は、家臣等の死体が転がり、まだ息のある者のうめき声が聞こえる、酸鼻を極める有様であった。
用心深い義鎮は、護衛の配下等に自分を囲む様に立たせ、裏切り者の不意打ちがあっても反撃できるよう、自らの
太刀も抜いた。
大友舘二階に上がった義鎮は、座敷に深手を負って倒れ、小姓に介抱されている父、義鑑の姿を見て近づく。
虫の息の義鑑は、義鎮に気付くと苦しげに奥座敷を指差し、「・・・塩市丸を助けよ」と命じた。
奥座敷には、浅傷を負い横になった側室と、側室に取りすがり泣く塩市丸(5歳)がいた。
「兄上・・・母じゃが・・」塩市丸が、座敷に入って来た義鎮に泣き声で訴えた。
「・・・塩市丸」 《おお、可愛い弟よ》
側室(塩市丸の母親)が人の気配に薄眼を開ける。
義鎮の姿が眼に入ると、憎悪の形相で義鎮を睨み付け、塩市丸を必死と抱き締めた。
《この女!自分と年嵩も変わらぬのに色香で父を取り込み、己の欲望から俺の謀殺まで企んだ愚かな女め!》
義鎮の体中から怒りが込み上げて来た。
義鎮、座敷に倒れている父、義鑑の眼(まなこ)を見詰める。
《父よ!俺の母者は何処に居る!何故、母者を追放した!何故、塩市丸の様に俺を可愛がってくれなかった! 幼少
の頃から重臣らの前で俺を愚弄し続け、面白半分に人前で罵倒され、俺がどれ程苦しんだか貴様に分るか!噂では 母者は夜鷹に身を落としたと聞くぞ!この怒りはすべて貴様の所為だ!》
義鎮、更に深く義鑑の眼を覗き込む。《よく見ておけ!》
義鎮、手に持った太刀を塩市丸の背中に向けると、塩市丸を抱き締めた側室ごと刺し貫いた。
塩市丸の小さな悲鳴が上がる。側室も顔をしかめ「ウッ」と唸る。
義鑑の眼に驚愕と絶望の色が浮かび上がる。
その嘆きをいたぶるように眺める義鎮。
更に、太刀に力を入れ深く刺し入れる。
舘中に、側室の甲高い悲鳴が響く。
《ああ、俺は何をした!可愛い塩市丸、我が弟よ!》
悪霊に魂を売り、代わりに欲望のすべてを手に入れた大友義鎮(宗麟)、21歳であった。
(注)二崩れの変には諸説あり、上記の物語は筆者 のフィクションである。
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